スティーブ・ジョブスといえば──黒のタートルネックにリーバイス501、ニューバランスのスニーカー。そしてルノアのメガネ。
この極めてミニマルな組み合わせで、自分自身をアイコンにしていました。
「ノームコア」という言葉が流行したとき、最もわかりやすい例として真っ先に名前が挙がったのも彼です。
IT業界の人々やミニマルファッション好きにとって、ジョブスはまさに神格的な存在。
シンプルでスタイリッシュなだけでなく、彼をめぐる逸話も格好いい。
「イッセイミヤケの黒タートルを100着以上所有していた」
「朝の服選びにエネルギーを使いたくないから同じ格好を続けた」
そんな話を聞けば、憧れる人が多いのも当然でしょう。

ただ──ここで立ち止まって考えたいのです。
これを単に「洗練されたミニマリズム」とだけ捉えるのは、本当に正しいでしょうか?
もし純粋にスタイリッシュさだけを追求するなら、他にも選択肢はいくらでもあったはずです。
たとえばグレーのスラックスやオフホワイトのコットンパンツ。上品で、CEOらしい格を備えたパンツを選ぶこともできたでしょう。
財力も審美眼もあったジョブスなら、理想の一本を手に入れるのは簡単だったはずです。
それでも彼は、あえて501を選んだ。
労働者のために作られたジーンズを。
ここにこそ、ジョブスのすごさがあると思うのです。

振り返ってみれば、彼は徹底して「貴族的な服」を避けていました。
- ルノアのメガネ:ドイツの精緻な工業製品
- イッセイミヤケのタートル:日本の前衛的かつミニマルなデザイン
- リーバイス501:アメリカのワークウェアの象徴
- ニューバランス990:快適さに徹したスニーカー
どれも高級なブランドやステータスアイテムに置き換えることはできたのに、あえて選ばなかった。
そこに込められていたのは「自分は労働者側の人間だ」という強いメッセージではないでしょうか。
美しく、実用的で、革新的なものを“つくり続ける人間”であることを、服を通して示していたのです。
そして驚くべきは、この一見バラバラな要素が、彼の審美眼によって見事に調和していたこと。
だからこそ、ジョブスのスタイルは唯一無二の完成度を持っていたのです。
このブログで伝えたい「私服を人生の戦略ツールに」という考え方は、まさにここに通じます。
ただ高価なものや人気ブランドを身につければいいのではありません。
「自分はどうありたいか」「どう見られたいか」。
その意思を込めて服を選ぶことこそが大切なのです。
もちろん、いきなりジョブスのような完成されたユニフォームを築くのは難しい。
私自身もまだまだ試行錯誤の途中です。
でも、その考え方を日常に少しずつ取り入れることはできる。
そしてそこにこそ、服選びの面白さがあるのだと思います。



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