J.M. Westonの♯180シグニチャーローファーといえば、“キング・オブ・ローファー”。
ローファーの中の王道中の王道で、どんなスタイルにも合わせられる定番だと思っている人も多いと思います。
別にそれは間違っていないんですが、実はけっこうピーキーな存在なんじゃないかな、と思っています。
ご存知の通り♯180シグニチャーローファーはフランス生まれ。作りはとにかく精緻で美しくて、昔からフランスの王侯貴族や富裕層に向けた靴を作ってきたブランドなんですよね。雰囲気としては、エルメスと同じように「エレガント」の象徴のような存在です。

そんな存在なんですが、ウェストンの三代目当主はアメリカに渡って靴づくりを学ぶんです。当時、グッドイヤーウェルテッド製法という丈夫で靴底の張り替えがきく製法が注目されていて、それを身につけるためだったらしいです。
そのときにアメリカ的なコインローファーのデザインに影響されて、♯180のイメージができたんじゃないかなと思います。
ちなみにローファーといえば、もうひとつ代表格にBASSのウィージャンがあります。マイケル・ジャクソンが『スリラー』のPVで履いていたやつですね。きっと踊りやすかったんでしょう。あれはアメリカの学生たちが「紐を結ばなくていい楽な靴」として愛用していたもので、名前の“ローファー=怠け者”をそのまま体現している。
オールデンやアレン・エドモンズといったアメリカのメーカーが作るローファーも、全体的にころんと丸っこくて、どちらかといえばカジュアル寄りです。イギリスの靴と比べると違いがよくわかります。
3代目ウェストンさんも、このアメリカ的な軽快さに結構影響を受けたんじゃないかな。

ただ、フランスの靴って意外と無骨で堅牢なところもあるんですよね。パラブーツなんか有名です。
フランスのファッションって華やかなイメージが強いと思いますけど、男性に関してはけっこう“質実剛健”な面もあるんです。
実際ウェストンって「固い靴」で超有名です。だから、アメリカ的な気質との親和性は案外高かったんだと思います。

そう考えると、♯180シグニチャーローファーってフランス的な端正さと、アメリカ的なカジュアルさが入り混じった靴なんです。エレガントなのに野暮ったい。上品さとラフさを両方持っている。
だから万能に見えるけど、実はかなりクセのあるデザインでもある。
この両極端さが他にないところで、僕はそこが大好きです。
ジャケットにもジーンズにも合わせられるけど、「万能」っていうより「異端」な感じをわかった上で履くと、もっと楽しい靴になる。これが♯180シグニチャーローファーの面白さなんじゃないかと思います。



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